概要
正福寺は、春来川の西岸に位置し、眼下には湯村温泉の源泉である「荒湯」を望むことができます。寺は848年(嘉祥元年)に円仁が当地を訪れ、湯村温泉を開湯した際に現在の地に開創されたと伝えられています。長い歴史の中で、正福寺は何度も焼失と再建を繰り返してきました。最も古い記録では1354年(文和3年)に実相院僧仁による再建が行われ、その後も1685年(貞享2年)に焼失し、1690年(元禄3年)に義密による再建が行われました。現在の堂宇は1780年(安政9年)に興範によって再建されたものです。
本堂と秘仏
本堂には、平安時代後期の作と推定される秘仏・不動明王立像が本尊として安置されています。この像は非常に重要な仏像であり、21年ごとに開帳される秘仏です。
熊谷直義の墓
境内には、慶安の変(由井正雪の乱)の首謀者の一人である熊谷直義の墓があり、山門脇には彼が建てた両親の供養碑もあります。熊谷直義はこの地に潜伏し、1673年(寛文13年)に病没しました。彼の遺品である薙刀や茶釜などは、当寺に保管されています。
正福寺桜
正福寺桜は、但馬地方から播磨地方北部に分布する桜の固有種です。植物学者牧野富太郎によって学名が「プルヌス タジマエンシス マキノ」と名付けられ、正福寺で栽培されていたことから和名「正福寺桜」とされました。
特徴
正福寺桜の特徴として、樹高は約5メートル、幹の周囲は約0.4メートルです。花弁は50枚前後で、ガク片が10枚、メシベは2~6本という八重桜の変種です。正福寺桜は、キンキマメザクラとヤマザクラの自然交配種とされています。葉柄と花弁は薄い毛で覆われており、花弁の枚数は樹齢に関連するとされています。開花時期は4月上旬から中旬です。この桜の所有者は正福寺であり、管理者は温泉町教育委員会です。
文化財
正福寺には、以下の重要な文化財が存在します。
木造不動明王立像
正福寺に安置されている木造不動明王立像は、平安時代に作られたもので、高さは134.5cmです。この像は桂の一木造であり、兵庫県指定有形文化財に指定されています。
正福寺桜
前述の正福寺桜もまた、兵庫県指定文化財の天然記念物に指定されています。
境内の主要施設
- 本堂 - 不動明王立像を安置する堂宇。
- 観音堂 - 千手観世音菩薩が祀られています。
- 鐘楼門 - 境内の入り口に立つ鐘楼を兼ねた門。
- 夢千代地蔵菩薩 - 境内に安置されている地蔵菩薩。
交通アクセス
正福寺へは、山陰本線の浜坂駅から全但バス「湯村温泉」行きで25分、バス停「湯村温泉」で下車し、徒歩5分で到着します。