山名氏ゆかりの寺院としての歴史
円通寺の創建は、1389年(元中6年/康応元年)にさかのぼります。当時、但馬守護を務めていた山名時義と、その子の山名時熙が、臨済宗の高僧・月菴宗光禅師を招いて寺を建立したと伝えられています。創建当初の円通寺は、複数の院や塔頭、末寺を擁する大規模な寺院であり、但馬地方における禅宗文化の重要な拠点でした。
境内には、創建に関わった山名時義と山名時熙の墓所があり、山名氏と寺院のつながりを今に伝えています。墓所を訪れることで、南北朝時代から室町時代にかけて但馬地方を治めた武家の歴史に思いをはせることができます。
山名時義と山名時熙
山名時義は、南北朝時代に活躍した武将で、山名氏の勢力拡大を支えた人物の一人です。美作・伯耆・但馬・備後などの守護職を務め、室町幕府においても重要な役割を果たしました。1376年ごろに山名氏の惣領となり、但馬守護職などを継承しましたが、その家督相続をめぐる対立は、後の山名氏内部の争いにつながっていきました。
時義の死後、長男の山名時熙が家督を継ぎました。しかし、山名氏の惣領権をめぐる争いから、時熙は足利義満の討伐を受け、一時但馬を離れることになります。その後、赦免されて明徳の乱に関わり、戦後には但馬国を与えられました。時熙はその後も政治に関わり、山名氏の勢力回復に努めたとされています。
円通寺に伝わる両者の墓所や木像は、こうした歴史を身近に感じさせる見どころです。寺院の成り立ちだけでなく、室町時代の但馬地方や山名氏の動向を知るうえでも興味深い場所となっています。
開山・月菴宗光禅師
円通寺の開山として伝えられる月菴宗光(げつあんそうこう)は、室町時代に活躍した臨済宗大應派の僧です。1326年に美濃国で生まれ、各地で修行と布教に励み、複数の寺院の開創に関わったとされています。
月菴宗光の禅の教えでは、「即心是仏」という考え方が重視されました。これは、心と仏の関係を見つめ、日々の修行を通じて仏の境地を求める思想です。円通寺の創建は、こうした禅の教えが但馬地方へ広がっていく歴史とも結びついています。
沢庵宗彭ゆかりの寺
円通寺は、江戸時代前期の臨済宗の僧・沢庵宗彭(たくあんそうほう)が滞在した寺としても知られています。沢庵は大徳寺の住持を務めたほか、江戸に東海寺を開山するなど、禅宗の発展に大きな影響を与えた人物です。徳川家光の帰依を受け、禅の教えを広めたことでも知られています。
また、沢庵漬けの名でも広く知られていますが、沢庵本人が考案したという説については、確かなことは分かっていません。円通寺を訪れた際には、禅の歴史や沢庵にまつわる逸話に思いをめぐらせながら、静かな境内を散策するのもおすすめです。
大石吉之進と円通寺のつながり
円通寺は、赤穂浪士として知られる大石良雄の次男・大石吉之進(おおいしきちのしん)にゆかりのある寺院としても伝えられています。吉之進は仏門に入り、元快と称しました。父や赤穂浪士たちによる討ち入りには加わらず、19歳で亡くなった後、豊岡の正福寺に葬られたとされています。
円通寺にまつわる人物の歴史をたどることで、但馬地方と武家社会、そして仏教との関わりをより深く知ることができます。周辺の史跡や寺社とあわせて巡れば、地域に受け継がれてきた歴史を幅広く楽しめるでしょう。
初夏を彩る約5千株のアジサイ
円通寺の大きな魅力の一つが、境内や参道を彩るアジサイです。約5千株が植えられており、例年6月下旬ごろに見頃を迎えます。青や紫などの花々が境内を彩り、梅雨の季節ならではの落ち着いた風景を楽しめます。
雨に濡れたアジサイと歴史ある寺院の建物、緑豊かな境内が調和し、しっとりとした趣のある景観が広がります。花を眺めながら参道を歩けば、日常の喧騒を離れ、ゆったりとした時間を過ごせるでしょう。
須谷あじさいまつり
アジサイの見頃には、「須谷あじさいまつり」が開催されます。花が境内を華やかに彩る時期にあわせて多くの参拝者が訪れ、円通寺周辺は季節の訪れを楽しむ人々でにぎわいます。
開催時期や内容は年によって異なる場合があるため、訪問を予定している場合は事前に最新情報を確認しておくと安心です。アジサイの開花状況も天候によって変わるため、見頃にあわせて訪れることで、より美しい景色を楽しめます。
総門・本堂・鐘楼
円通寺の境内では、総門や本堂、鐘楼などの建造物にも注目したいところです。歴史を感じさせる総門をくぐると、落ち着いた雰囲気の境内が広がり、禅寺ならではの静けさに包まれます。
本堂は、参拝者が静かに手を合わせ、祈りを捧げる場所です。周囲の自然や庭園と調和した境内をゆっくりと巡ることで、華やかなアジサイの景観とはまた異なる、寺院本来の落ち着いた魅力を感じられます。鐘楼も境内の景観を形づくる存在であり、歴史ある寺院の趣を伝えています。
兵庫県指定文化財「絹本淡彩月庵宗光像」
円通寺には、文化財として評価されている寺宝も伝わっています。なかでも「絹本淡彩月庵宗光像」は、南北朝時代の作品として知られ、1971年(昭和46年)4月1日に兵庫県指定文化財となりました。
この肖像画は、円通寺の開山とされる月菴宗光禅師に関わる文化財であり、寺院の歴史と禅宗文化を伝える貴重な存在です。建物や庭園だけでなく、こうした文化財にも目を向けることで、円通寺が長い年月にわたって受け継いできた信仰と文化の奥深さを感じられます。
周辺の観光スポット
円通寺の周辺には、豊岡市立竹野中央公園や竹野浜、猫崎などの観光スポットがあります。竹野浜は美しい砂浜と海の景観で知られ、海辺の散策や自然を楽しみたい人におすすめの場所です。猫崎周辺では、日本海沿岸ならではの地形や景色を楽しめます。
円通寺で歴史とアジサイを楽しんだ後、海岸沿いの景勝地を巡れば、但馬地方の文化と自然を一度に満喫できます。季節や天候にあわせて行き先を組み合わせ、ゆとりのある観光プランを立てるとよいでしょう。
交通アクセス
円通寺へは、JR山陰本線の竹野駅から徒歩約20分でアクセスできます。また、竹野駅から全但バスを利用し、「須谷」バス停で下車すると、徒歩約4分で到着します。
徒歩で訪れる場合は、所要時間に余裕を持って計画しましょう。バスの運行時刻や本数は変更されることがあるため、公共交通機関を利用する際は事前に最新の情報を確認することをおすすめします。
歴史と季節の花を楽しむ円通寺
萬年山円通寺は、山名時義・時熙ゆかりの歴史、月菴宗光禅師を開山とする禅寺の伝統、沢庵宗彭や大石吉之進にまつわる逸話など、さまざまな歴史的背景を持つ寺院です。境内には創建に関わった人物の墓所や文化財が伝わり、但馬地方の歴史を知るうえでも興味深い場所となっています。
さらに、初夏には約5千株のアジサイが咲き誇り、歴史ある建物や緑豊かな境内を美しく彩ります。歴史探訪を楽しみたい人にも、季節の花を愛でたい人にもおすすめの古刹です。竹野浜や猫崎など周辺の観光スポットとあわせて訪れ、豊岡の歴史と自然に触れてみてはいかがでしょうか。