温泉寺の歴史
温泉寺の創建は古く、寺伝によると、天平10年(738年)に城崎温泉の開祖とされる道智上人によって開かれたと伝えられています。寺の名称である「温泉寺」と山号の「末代山」は、当時の聖武天皇から賜ったものとされています。
城崎温泉の発展と深い関わりを持つ温泉寺は、長きにわたって温泉地の信仰の中心として大切に守られてきました。境内には室町時代初期に建立された本堂をはじめ、江戸時代に整備された建造物などが残されています。なかでも本堂は、但馬地方の歴史的な木造建築を代表する建物の一つで、国の重要文化財に指定されています。
寺院の建築や仏像、石造文化財を通して、但馬地方に受け継がれてきた仏教文化と建築技術の変遷を知ることができます。
温泉寺の貴重な文化財
温泉寺には、長い歴史を物語る建築物や仏像、絵画、石造物など、数多くの文化財が伝えられています。仏教美術や日本の伝統建築に関心のある方にとっても、見逃せない見どころです。
本堂
本堂は室町時代初期に建立された建物で、国の重要文化財に指定されています。屋根は入母屋造で、正面は5間の規模を持ち、和様・禅宗様・大仏様という日本の伝統建築の三つの様式を巧みに取り入れている点が特徴です。
堂内には本尊の十一面観音菩薩が安置されています。歴史を感じさせる建築の細部にも注目しながら、古寺ならではの落ち着いた雰囲気を味わってみてください。
絹本著色十六善神像
絹本著色十六善神像は、平安時代末期の作品とされる仏教絵画で、国の重要文化財に指定されています。絹地に描かれた繊細な表現から、当時の仏教美術の特徴をうかがい知ることができます。
木造十一面観音立像
木造十一面観音立像は、平安時代中期に制作されたとされる仏像です。伝稽文作と伝えられ、古代から中世にかけての観音信仰や仏像彫刻の歴史を考えるうえで貴重な文化財です。
木造千手観音立像
木造千手観音立像は、平安時代後期の作品とされ、国の重要文化財に指定されています。多くの手で人々を救うとされる千手観音の信仰を伝える仏像であり、温泉寺に受け継がれてきた仏教文化の豊かさを感じさせます。
石造宝篋印塔
石造宝篋印塔は、鎌倉時代末期に建立されたとされる石造文化財で、国の重要文化財に指定されています。長い年月を経て残された石塔からは、中世の石造技術や当時の信仰のあり方を知ることができます。
境内の見どころ
温泉寺の境内は、山麓・山腹・山頂の三つのエリアに分かれています。山の斜面に沿って堂塔や石造物が点在し、参拝しながら歴史的な建造物と自然の景観を楽しめます。石段を歩いて巡るほか、城崎温泉ロープウェイを利用して山腹へ向かうこともできます。
山麓エリア
山門(仁王門)
山麓に建つ山門は、明和年間(1764~1772年)に建立された八脚二重門です。堂々とした姿が印象的で、温泉寺の歴史ある境内へと参拝者を迎え入れます。寺院建築の伝統を感じられる、境内散策の出発点です。
薬師堂
薬師堂は、文化年間(1804~1818年)に建立された建物で、薬師如来を安置しています。人々の健康や病気平癒への願いと結びついた薬師信仰に触れられる場所です。
山腹エリア
本堂
山腹に位置する本堂は、温泉寺を代表する建造物です。室町時代初期の建築様式を今に伝え、和様・禅宗様・大仏様を折衷した独特の構成が見どころとなっています。歴史ある堂宇の佇まいと周囲の自然が調和し、静かな参拝のひとときを過ごせます。
本坊
本坊は、寺院の住職が生活し、寺務を行う建物です。寺院の日常を支える施設として、本堂などの宗教建築とともに境内を構成しています。
多宝塔
多宝塔は、1768年に再建されたと伝えられる塔で、但馬地方では唯一の多宝塔として知られています。内部には金剛界大日如来が安置されています。塔の優美な姿と、周囲の木々が織りなす景観も見どころです。
石造宝篋印塔
境内には、歴史ある石造宝篋印塔も残されています。石造文化財ならではの落ち着いた佇まいを眺めながら、温泉寺に受け継がれてきた信仰の歴史に思いを巡らせてみてください。
鐘楼
鐘楼は江戸時代初期に建立されたとされる建物です。寺院の伝統的な景観を形づくる建造物の一つで、境内に響く鐘の音も、古寺ならではの趣を感じさせます。
山頂エリア
奥の院
奥の院は、2010年に再建された建物です。倉橋英太郎建築設計事務所が設計を手がけ、古くから続く寺院の信仰を現代へと受け継いでいます。山頂エリアを訪れた際には、静かな環境の中で参拝してみてください。
慈母観音像
慈母観音像は、2007年10月28日に建立された観音像です。慈しみ深く人々を見守る観音の姿は、多くの参拝者の信仰を集めています。
かに塚
かに塚は、山頂にある蟹にまつわる供養塔です。温泉寺に伝わる信仰や地域の伝承に触れられるスポットの一つで、境内を巡る際に訪れておきたい場所です。
温泉寺の年中行事
開山忌
温泉寺では、毎年4月23日と24日に開山忌が営まれます。この行事は、寺院を開いたとされる道智上人の遺徳をしのび、長い歴史と伝統を後世へ伝える大切な法要です。
城崎温泉の歴史と深く結びついた温泉寺の信仰に触れる機会でもあり、地域に受け継がれてきた文化や伝統を知るうえでも意義のある行事です。
温泉寺へのアクセス
温泉寺は城崎温泉の中心エリアから訪れやすい場所にあります。JR山陰本線の城崎温泉駅からは徒歩約15分が目安です。温泉街の散策とあわせて訪れることができるため、城崎観光の立ち寄り先としてもおすすめです。
バスを利用する場合は、全但バスの城崎町内方面の路線に乗車し、「鴻の湯」バス停で下車します。バス停から大師山の麓までは徒歩約2分です。そこから参道の石段を約450段登ると、本堂に到着します。石段を歩く場合は、歩きやすい靴を用意しておくと安心です。
より手軽に山腹の本堂付近へ向かいたい場合は、城崎温泉ロープウェイの利用も便利です。「城崎温泉」駅から乗車すると、約3分で「温泉寺」駅に到着し、駅から本堂までは徒歩ですぐです。山の景色を楽しみながら移動できるため、体力や時間に合わせて参拝方法を選べます。
城崎温泉とあわせて訪れたい歴史ある寺院
末代山温泉寺は、738年に開かれたと伝えられる歴史と、国の重要文化財を含む貴重な建築物や仏像を今に伝える古刹です。山麓から山頂へと続く境内には、それぞれ異なる魅力を持つ堂塔や観音像、石造物が点在しています。
城崎温泉で外湯めぐりや温泉街の散策を楽しむ際には、ぜひ温泉寺にも足を運んでみてください。温泉地の歴史を支えてきた信仰と文化に触れながら、但馬地方の奥深い魅力を発見できるでしょう。