西日本初のアスファルトフェイシングフィルダム
多々良木ダムの特徴は、上流側の表面をアスファルトで舗装した構造にあります。この形式は「アスファルトフェイシングフィルダム」と呼ばれ、日本では1968年(昭和43年)に福島県の大津岐ダムで初めて導入されました。多々良木ダムは、西日本で初めてこの形式を採用したダムとして建設されました。
高さ64.5メートルの堤体は、周囲の山並みに溶け込むように広がり、貯水池とともに独特の景観をつくり出しています。普段は発電施設としての役割が中心ですが、ダムの構造や建設技術に関心がある方にとっても興味深い見どころです。
関西の電力供給を支える揚水発電
多々良木ダムは、上部調整池である黒川ダムと連携して揚水発電を行っています。電力需要の少ない時間帯に水を上池へくみ上げ、電力需要が高まる時間帯に水を下池へ落として発電する仕組みです。電力の需要と供給の変動に対応するうえで、重要な役割を果たしています。
多々良木ダムと黒川ダムの間では、奥多々良木発電所が運用されています。黒川ダムを上池、多々良木ダムを下池とし、387.5メートルの有効落差を利用して発電します。発電設備の多くは地下約100メートルに設けられており、山間部の地形を生かした大規模な発電施設となっています。
奥多々良木発電所の発電出力は120万キロワットです。また、発電所を含む奥多々良木発電所群は、関西地方の電力供給を支える大規模な揚水発電施設として知られています。
電力需要の増大から始まった建設の歴史
多々良木ダムの建設が計画された背景には、高度経済成長期における関西地方の電力需要の急増がありました。大阪を中心とする都市化や阪神工業地帯の拡大によって電力消費が増え、昼間の需要のピークに対応できる発電施設の整備が求められていました。
そこで注目されたのが、電力需要の少ない時間帯に水をくみ上げ、必要な時間帯に発電する揚水発電です。当初は別の候補地で計画が進められましたが、環境問題などを背景に計画が断念され、代替候補地として現在の多々良木ダムの建設地が選ばれました。
建設工事は1970年に着工し、1974年に完成しました。その後、オイルショックを経て水力発電の重要性が改めて認識され、1979年には発電能力を増強する工事が行われました。こうして整備された施設は、現在も電力の安定供給を支えています。
黒川ダムと地域の水資源
多々良木ダムと連携する黒川ダムは、揚水発電の上池として機能するだけでなく、地域の水資源を支える役割も担っています。1979年からは兵庫県の水道用水供給事業の水源として利用され、姫路市をはじめとする地域に上水道や工業用水を供給しています。
山間部に築かれたダムは、発電に必要な水を蓄えると同時に、暮らしや産業に欠かせない水の供給にも関わっています。多々良木ダムと黒川ダムの仕組みを知ることで、ダムが地域社会やエネルギー供給に果たす役割をより深く理解できるでしょう。
ダム直下に広がるあさご芸術の森
多々良木ダムの下流には、緑豊かな「あさご芸術の森」が整備されています。園内には「あさご芸術の森美術館」があり、自然の景観と芸術作品をあわせて楽しめます。ダムの直下に美術館があるのは珍しく、発電施設と文化施設が近接する独特のエリアとなっています。
周辺には野外彫刻公園や朝来市朝来歴史民俗資料館などもあり、自然散策だけでなく、芸術や地域の歴史に触れることができます。ダム湖の景観を楽しんだ後に文化施設を巡れば、朝来市の多彩な魅力を一度に味わえるでしょう。
また、多々良木川のほとりには温泉を備えたホテルが2軒あるとされ、散策や観光の合間にくつろぐこともできます。周辺でゆっくり過ごしたい方は、自然と芸術、温泉を組み合わせた旅を計画するのもおすすめです。
発電所の見学とダム湖周辺のイベント
奥多々良木発電所は、事前予約によって一般の見学が可能とされています。普段は目にする機会の少ない大規模な発電施設について、仕組みや役割を学べる貴重な機会です。見学の実施状況や申込方法は変更される場合があるため、訪問前に関係施設へ確認しておくと安心です。
また、毎年6月の第1日曜日には、ダム湖を一周するマラソン大会が開催されると紹介されています。大会に合わせて発電所の見学ツアーが行われることもあり、スポーツと施設見学を通じて地域の魅力に触れられます。開催日や実施内容については、事前に最新情報を確認しましょう。
春には「千本桜」の景観も楽しめる
多々良木ダム周辺は、春の桜の名所としても知られています。湖の周辺や山あいに咲く桜が景観を彩り、花見の季節には多くの人が訪れます。「千本桜」と呼ばれる桜の景観も、この地域の春の楽しみのひとつです。
近隣には、雲海の名所として知られる竹田城跡や立雲峡もあります。春には桜を楽しみながら、歴史的な景観や山々の眺望を巡る旅もおすすめです。季節によって異なる表情を見せる但馬の自然を満喫できます。
多々良木ダムへのアクセスと周辺観光
多々良木ダムへは、国道312号や国道429号を利用してアクセスするのが一般的です。ダム湖の外周道路から分岐する市道を進むと、黒川ダム方面へ向かうこともできます。山間部の道路を通るため、走行前に道路状況を確認し、時間に余裕を持って移動しましょう。
途中には、「目の神様」として信仰を集める青倉神社があります。巨岩を御神体とする神社で、御霊水にまつわる伝説でも知られています。多々良木ダムとあわせて訪れることで、朝来市の自然と信仰文化の両方に触れられます。
さらに、播但連絡道路や国道312号を利用すれば、生野銀山や出石などの観光地を巡ることもできます。姫路方面への移動も組み合わせやすいため、但馬地域の自然や産業遺産をめぐるドライブコースの一部として訪れるのもよいでしょう。
自然と近代技術が調和する多々良木ダム
多々良木ダムは、山間の静かな貯水池であると同時に、関西地方の電力供給を支える大規模な揚水発電施設です。アスファルトフェイシングフィルダムという特徴的な構造や、黒川ダムとの連携による発電の仕組みを知れば、普段見慣れたダムの景色も違った角度から楽しめます。
周辺には、あさご芸術の森や美術館、青倉神社、桜の名所などが点在しています。ダムの景観を眺めるだけでなく、産業技術や芸術、自然、地域の歴史に触れられる多々良木ダムは、朝来市を巡る観光の立ち寄り先として魅力的なスポットです。