併設施設と第六次産業化の取り組み
但熊には、卵や米、地元農家の野菜を販売する「百笑館」、そして西垣養鶏場の卵を使ったスイーツを提供する「但熊弐番館」が併設されています。このように、生産から加工、流通、販売に至るまで一貫して行う第六次産業化の取り組みが評価され、平成23年度農林水産祭の畜産部門で天皇杯を受賞しています。
但東町と養鶏業の歴史
但熊が位置する但東町は、周囲を山々に囲まれた地域で、戦前は製炭や養蚕、畜産が盛んに行われていました。戦後は養鶏が主要な産業となり、西垣源正は1969年に家業である養鶏場に就職しました。その後、地域の養鶏場が次々と廃業し、西垣養鶏場が唯一の養鶏場として残ることとなりました。これにより、ブランド卵「げんちゃんのクリタマ」が誕生し、現在も生産・販売が続けられています。
卵かけご飯専門店「但熊」の誕生
西垣は卵と米の味に自信を持っており、島根県で卵かけご飯専用醤油が発売されたことをきっかけに、卵かけご飯専門店を開業することを思い立ちました。反対意見も多かったものの、「安くて本当においしいなら、人は来る」との信念のもと、2006年に「但熊」を開店しました。店名には「ツキノワグマも生息するほど自然豊かな但馬」という意味が込められており、自然との共生を象徴しています。
店の特徴と価格設定
但熊の看板メニューは、卵かけご飯、味噌汁、漬物がセットになった定食です。西垣は当初、この定食を200円で提供したいと考えていましたが、店長の反対により最終的には350円での販売となりました。開店当初は赤字が続きましたが、テレビで紹介されると一躍人気店となり、客足が途切れることはありませんでした。この成功は、同時期に起こった卵かけご飯ブームも後押ししました。
百笑館と但熊弐番館の発展
1996年には、5人の共同事業者を募り、町内に農産物直売所を開設しました。2001年には現在の国道426号線沿いに移転し、野菜直売所「百笑館」を開業しました。新鮮な野菜が口コミで広まり、売れ行きも順調でしたが、自家製米の売れ行きには苦戦していました。しかし、「但熊」開業後、百笑館の売上も飛躍的に向上しました。
但熊弐番館の開業と評価
2010年には、自社の卵を使ったスイーツ専門店「但熊弐番館」を開業しました。この店舗は、六次産業化の全国モデルとして評価されるとともに、2階にはガラス張りの展望スペースが設けられており、360度の山の風景を楽しみながらスイーツを堪能できる設計となっています。
社長交代と地域への貢献
2020年9月、西垣は社長の座を娘婿の平岡康寛に譲り、自身は取締役に就任しました。社長退任後も、地域の環境整備に力を注いでおり、国道の草刈りや獣害防止網の維持管理など、地域社会への貢献を続けています。また、同年11月には、六次産業化の先駆者としての功績が評価され、旭日双光章を受章しました。
但熊のこだわり
クリタマと飼料へのこだわり
但熊で提供される卵は、西垣養鶏場で生産される「クリタマ」が使用されています。クリタマは、炭や魚粉、生米ぬか、トウモロコシなど、25種類の飼料を配合して育てられた鶏から生まれた卵です。この鶏は「ゴトウモミジ」という品種で、ひよこから丁寧に育てられています。
ご飯と薬味のこだわり
ご飯には、但東町産の「夢ごこち」を使用しています。夢ごこちは、コシヒカリ同士を交配させ、突然変異で生まれた品種で、しっとりとした粘りが特徴です。肥料には鶏糞を使用しており、その味わいは「魚沼産のコシヒカリにも負けない」と評されています。また、店内では複数の醤油や薬味が用意されており、自分好みの卵かけご飯を楽しむことができます。
その他のメニュー
但熊では、卵かけご飯定食以外にも、オムレツなどのメニューが提供されています。豊富なメニューとこだわり抜いた食材が、訪れる人々を満足させています。
評価と受賞
但熊は、2011年(平成23年)に平成23年度農林水産祭の畜産部門で天皇杯を受賞しました。また、2020年(令和2年)には、開業者である西垣厳正が旭日双光章を受章し、六次産業化の先駆者としての功績が改めて評価されました。これにより、但熊は地域社会に貢献し続ける存在として、その名を広く知られることとなりました。