1903年に建てられた外国人の邸宅
萌黄の館は、1903年にアメリカ合衆国総領事を務めていたハンター・シャープ(Hunter Sharp)の邸宅として建設されました。設計者はA.N.ハンセルとされています。建築当初の外壁は白色で、「白い異人館」と呼ばれていました。
その後、建物はドイツ人の所有を経て、1944年に神戸電鉄社長の小林秀雄が取得しました。小林家の住宅として使用され、1978年まで居住が続きました。外国人の邸宅として建てられた建物が、時代とともに所有者や用途を変えながら受け継がれてきたことも、この館の歴史を物語っています。
国の重要文化財として保存される建物
1980年、旧シャープ住宅は「小林家住宅(旧シャープ住宅)」の名称で国の重要文化財に指定されました。指定対象には建物だけでなく、803.6平方メートルの宅地も含まれています。歴史的な建築物とその周辺環境を一体として保存することで、明治期の神戸における外国人住宅の姿を今に伝えています。
1987年からは半解体修理が行われ、建物の構造や意匠を調査しながら保存修復が進められました。この修理の過程で、創建当時の外壁の色が明らかになり、1989年に外壁が萌黄色へと変更されました。これをきっかけに「萌黄の館」という愛称が広まり、現在ではその色彩が建物の大きな特徴となっています。
コロニアル様式とバロック様式が調和する建築美
開放的な印象を与えるコロニアル様式
萌黄の館は、典型的なコロニアル様式を基調とした2階建ての洋館です。コロニアル様式らしい軽快で開放的な外観が特徴で、隣接する風見鶏の館の重厚なネオ・バロック様式とは異なる魅力を見せています。北野の異人館街を巡る際には、2つの建物のデザインを見比べることで、西洋建築の多様性を楽しめます。
個性の異なるベイ・ウインドー
建物の見どころの一つが、異なるデザインで設けられた2つのベイ・ウインドーです。ベイ・ウインドーとは、建物の壁面から外側へ張り出すように設けられた窓のことで、室内に光を取り込み、外観にも立体的な表情を与えます。萌黄の館では、それぞれ異なる意匠が建物に変化を生み出し、細部まで工夫された設計を感じさせます。
モザイク装飾が美しい階段
館内では、モザイク装飾が施された階段にも注目です。建物の随所にはバロック様式を思わせる装飾が取り入れられ、華やかさと繊細さが調和しています。また、西洋建築を基本としながら日本の様式も一部に取り入れられており、異なる文化が交差した時代の建築を知る手がかりとなっています。
萌黄色の外壁に込められた歴史
現在の萌黄色の外壁は、1987年からの修理を経て、1989年に整えられたものです。創建当初は白い外壁だったことから、かつては「白い異人館」として知られていました。修理によって当初の色彩が判明したことで、建物は現在の印象的な姿へと変わりました。
柔らかな萌黄色は、周囲の緑や北野の街並みによく映え、異人館街の中でもひときわ目を引きます。外観を眺める際には、色彩だけでなく、窓の配置や外壁の装飾、建物全体のバランスにも注目してみましょう。保存修復によって明らかになった歴史を知ると、目の前の建物がより興味深く感じられます。
阪神・淡路大震災の被害と復旧
1995年の阪神・淡路大震災では、萌黄の館も大きな被害を受けました。建物に設けられていた3本の煙突がすべて崩落し、外壁にも亀裂が生じました。その後、約1年をかけて復旧工事が行われ、歴史的建造物として再び公開できる状態へと修復されました。
庭園の一角には、震災で崩落した煙突が当時の姿を伝える展示として残されています。美しい洋館を見学するだけでなく、震災の記憶や文化財を守り伝える取り組みにも思いを巡らせることができます。神戸の歴史を知るうえで、建物そのものとともに注目したい場所です。
初代所有者ハンター・シャープの歩み
萌黄の館を建てたハンター・シャープは、1861年にアメリカ合衆国ノースカロライナ州ハートフォードで生まれました。ノースカロライナ大学を卒業した後、1886年に来日し、1900年には神戸で結婚しています。1903年に自邸として萌黄の館を建設し、1908年に日本を離れました。
帰国後は外交官として、モスクワ総領事、リヨン領事、エディンバラ領事などを歴任しました。1923年にエディンバラで亡くなっています。萌黄の館は、シャープが神戸で暮らした時代を今に伝える建物であり、明治期の国際都市・神戸の歴史を知るうえでも貴重な存在です。
萌黄の館の見学情報
開館時間
4月から11月までは9:00~18:00、12月から3月までは9:30~17:00です。季節によって開館時間が異なるため、訪問する時期に合わせて確認しましょう。
休館日
休館日は毎月第2水曜日です。見学を予定している場合は、休館日に重ならないよう注意してください。
萌黄の館へのアクセス
萌黄の館は、神戸の北野異人館街にあり、複数の鉄道駅から徒歩でアクセスできます。
山陽新幹線および神戸市営地下鉄の新神戸駅からは徒歩約10分です。JR神戸線の三ノ宮駅、阪急電鉄の神戸三宮駅、阪神本線の神戸三宮駅、神戸市営地下鉄山手線の三宮駅、神戸市営地下鉄海岸線の三宮・花時計前駅、ポートライナーの三宮駅からは、それぞれ徒歩約15分が目安です。
北野エリアには風見鶏の館をはじめ、個性豊かな異人館や街並みが点在しています。周辺の見どころを巡りながら歩けば、神戸ならではの異国情緒や歴史的な景観をより深く楽しめます。
神戸・北野の歴史と異国情緒を感じる洋館
萌黄の館は、1903年に建てられた外国人住宅の歴史と、コロニアル様式を中心とした美しい建築意匠を今に伝える重要文化財です。萌黄色の外壁や個性的なベイ・ウインドー、モザイク装飾の階段など、建物の内外には見どころが数多くあります。
また、所有者の変遷や保存修復、阪神・淡路大震災からの復旧といった歴史を知ることで、単なる美しい洋館にとどまらない魅力が見えてきます。隣接する風見鶏の館や北野異人館街の散策とあわせて訪れ、神戸に息づく異文化交流の歴史と建築美をじっくり味わってみてはいかがでしょうか。