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坂越

(さこし)

坂越は、兵庫県赤穂市の東部に位置し、瀬戸内海坂越湾に面した港町です。この町は、都市景観大賞(都市景観100選)に選ばれるほど美しい伝統的建造物群と古い町並みで知られています。町のシンボルである秦河勝聖域の島、生島(いきしま)は、国の天然記念物に指定されており、瀬戸内海国立公園の特別保護地区でもあります。また、この地は播州赤穂産の「坂越のかき」の養殖地としても有名です。

坂越の歴史

坂越の発展と文化財

坂越は古くから四季折々の貴重な行事や祭礼が行われており、伝統芸能も数多く保存されています。その中でも特に有名なのは、大避神社の「坂越の船祭り」で、これは国の重要無形民俗文化財に指定されています。また、坂越浦の歴史を築いた北前船廻船の物語が評価され、平成29年度には手づくり郷土賞を受賞しました。2018年には、坂越の関連文化財7件が「日本遺産」に認定されました。

坂越の町並みと建造物

多くの港町が海岸沿いに主要な街道を持つのに対し、坂越の「大道」は内陸の千種川から谷間の坂を越えて坂越浦へと続く特徴的な道です。この道には商家や酒蔵、寺院、北前船主の船屋敷などが立ち並び、現在でもその面影を色濃く残しています。町の中心にある旧坂越浦会所は、江戸時代には赤穂藩主の休息処として利用され、近世には坂越の行政や商業の中心地でした。特に、2階の観海楼から見渡せる坂越浦の眺望は、町の歴史を今に伝えています。

坂越湾とその風景

坂越の自然環境も非常に魅力的です。船岡公園の高台や妙見寺観音堂、茶臼山の山頂からは、坂越湾と生島や家島を含む多島美の絶景を一望することができます。また、海沿いに建つ屋敷の石積みの土台は、かつて海がすぐそばまで広がっていた名残を今に伝えています。

坂越の地理と交通

坂越は兵庫県の西南端に位置し、南は播磨灘・坂越湾に面しています。赤穂市から北東方向に約4キロメートル、相生市から約6キロメートルの位置にあります。坂越駅からは徒歩約15分でアクセス可能で、国道250号や県道458号、県道32号が走っています。気候は温暖で、瀬戸内海型気候区に属しています。宝珠山や亀甲山などの山々に囲まれた地域で、標高は5メートルと低く、自然と人々の暮らしが調和した地域です。

坂越の歴史的な出来事

坂越の起源と発展

坂越の歴史は非常に古く、644年には秦河勝が蘇我の入鹿の乱を避け、この地に流れ着いたとされています。以降、坂越は瀬戸内海の重要な中継地として、歴史上多くの人物が訪れました。例えば、空海や菅原道真、イエズス会の宣教師ルイス・フロイス、さらには豊臣秀吉などが坂越に立ち寄っています。

北前船と坂越

17世紀に入ると、坂越は瀬戸内海有数の廻船業の拠点として発展しました。奥藤、大西、岩崎、渋谷などの豪商が廻船業を営み、坂越浦には大型廻船や小型廻船が多数停泊していました。坂越は西国大名の参勤交代の港としても利用され、その繁栄ぶりは江戸時代においても続きました。

坂越とオランダ船

坂越にはオランダ船の入港記録も残っています。特に1787年には、蘭学者である司馬江漢が坂越に立ち寄ったことが『江漢西遊日記』に記されています。これにより、坂越が国際的な交易の場としても機能していたことが伺えます。

坂越の衰退と現代

18世紀以降、日本海の諸港が北前船の拠点となる中で、多くの瀬戸内の港町が衰退しましたが、坂越は「赤穂の塩」を運ぶ港として明治時代まで栄えました。現在も、坂越浦から続く「大道」と呼ばれる通りの風格ある町並みは、当時の繁栄を今に伝えています。

坂越と景教

坂越には、渡来人であった秦河勝が祀られている大避神社があります。その一族はネストリウス派キリスト教徒の末裔であったという伝説があります。日本のキリスト教研究者によると、坂越には6世紀半ばにネストリウス派キリスト教(景教)が伝来し、教会が築かれたとされています。また、日本初の孤児院(悲田院)としても大避神社が機能していたと推測されています。

坂越の道真伝説

坂越には、菅原道真に由来する地名や伝説が多く残っています。901年(延喜元年)、道真が九州の太宰府に左遷される途中、この地に立ち寄った際に、地元で厚い歓迎を受けたとされています。坂越の地名には、その時の出来事が色濃く反映されています。

坂越の近代史

近代においても、坂越は多くの出来事を経験してきました。昭和20年には米軍機の襲来を受け、1950年には坂越の海岸が瀬戸内海国立公園に指定されました。坂越の景観は次第に整備され、1997年には国土交通省の都市景観100選に選定されました。2018年には「北前船寄港地・船主集落」として日本遺産に認定され、今もなおその歴史と文化が保存されています。

坂越の名所・旧跡・観光施設

坂越の古い町並み

坂越は、都市景観100選に選ばれた美しい町並みが残る地域です。歴史的建造物が多く、日本遺産の構成文化財にも指定されています。

妙見寺

妙見寺は、8世紀中期頃に行基によって開山されたと伝わる真言宗の寺院です。『太平記』に登場する児島高徳(こじま たかのり)ゆかりの地でもあります。中腹にある観音堂からは、坂越浦を一望する絶景が広がります。

宝珠山(ほうじゅさん)

宝珠山には、ウォーキングコースや八十八箇所霊場があり、ハイキングスポットとしても人気があります。

坂越大道(さこしおおみち)

坂越の港と千種川の高瀬舟船着き場を結ぶ通りで、最も往時の面影を残す町並みが続いています。近年では、古民家を活用したカフェやスイーツ店が増え、赤穂の新しい観光スポットとして注目されています。

坂越まち並み館(旧奥藤銀行)

日本遺産の構成文化財に指定されている歴史的建造物です。

奥藤酒造郷土館

地元の酒造りの歴史を伝える資料館で、奥藤酒造の伝統に触れることができます。

坂越の祭事・催事

坂越・鳥井町の曳きとんど(左義長)

毎年1月15日に行われる伝統行事で、台車に載せた左義長(とんど)を海岸まで曳き、賑やかにお囃子や小唄が奏でられる中で点火されます。約250年前の明和・安永年間(1764~1781年)に始まったとされる、全国でも珍しい小正月行事です。

坂越の観光スポットまとめ

坂越は、歴史的な町並み、美しい自然、伝統文化が調和した魅力あふれる港町です。生島の神秘的な景観、歴史ある神社仏閣、名産の牡蠣や地酒など、訪れる人々を魅了する要素が詰まっています。

近年では、古民家を活用したカフェなどが増え、新たな観光地としても注目されています。ゆったりとした時間の流れる坂越の町を散策し、その魅力を存分に味わってみてはいかがでしょうか。

地酒

坂越には、歴史ある酒蔵「奥藤酒造」があり、代表的な銘柄として「忠臣蔵」(「凛」・「QUATRESEPT47」)や「乙女」が知られています。

奥藤酒造

奥藤酒造の創業は慶長6年(1601年)で、兵庫県内では神戸の剣菱酒造、伊丹の小西酒造に次いで3番目に古い酒蔵です。全国的にも有数の歴史を誇る老舗であり、現在も伝統の酒造りが続けられています。

また、近年では兵庫県立上郡高等学校農業科の生徒が仕込んだ清酒の販売も行われています。

牡蠣(かき)

坂越湾は、日本名水百選に選ばれた清流・千種川の河口に位置し、周囲を森に囲まれた清浄海域です。そのため、ここで養殖される牡蠣は、安全で衛生的な食材として人気があります。

特に坂越の牡蠣は、種付けから収穫までが短い「1年牡蠣」として育てられており、海水独特のえぐみやクセが少なく、牡蠣が苦手な方でも食べやすいのが特徴です。全国各地の市場にも流通し、高く評価されています。

生島(いきしま)— 神聖な森に守られた島

生島(いきしま)は、坂越浦の沖に浮かぶ周囲1,630mの小島です。この島は、古来より神域とされ、人の立ち入りが禁じられてきたため、原始の森がそのまま残っています。

国の天然記念物「生島樹林」

生島は全域が瀬戸内海国立公園の特別保護地区に指定され、1924年(大正13年)には「生島樹林」として国の天然記念物にも指定されました。森林は、高木層をスダジイやモチノキ、亜高木層をカクレミノやアラカシが占める典型的な暖地性シイ林であり、学術的にも価値の高い地域です。

秦河勝の墓

生島には、7世紀半ばに畿内から坂越に逃れ、この地で没したとされる秦河勝(はたのかわかつ)の墓があります。秦河勝は、飛鳥時代の豪族であり、聖徳太子に仕えたことで知られています。

大避神社

坂越の氏神を祀る神社で、瀬戸内海三大船祭りの一つである「坂越の船祭り」が行われることで有名です。2018年(平成30年)には、日本最古級の船絵馬などの奉納物が、日本遺産の構成文化財に認定されました。

Information

名称
坂越
(さこし)

姫路・赤穂

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