揖保乃糸の魅力
伝統製法が生み出す独特の食感
揖保乃糸は、手延べの工程を何度も繰り返し、熟成させながら作られます。麺を「ねかし」、縒(よ)りをかけながら徐々に細く伸ばすことで、コシがあり歯切れの良い食感が生まれます。また、この製法によって茹で伸びしにくく、ツルリとした滑らかな舌触りが実現されています。
様々な料理に合う万能性
揖保乃糸は、伝統的な冷やしそうめんとして食べるのはもちろんのこと、さまざまなアレンジが可能です。トマトソースやカレー味といった洋風のアレンジにもよく合い、サラダ麺や温かい煮込み料理にも適しています。アイデア次第で幅広い楽しみ方ができるのも魅力のひとつです。
揖保乃糸の歴史
室町時代から続く素麺作り
揖保乃糸の歴史は古く、室町時代にまで遡ります。揖保郡太子町の斑鳩寺に伝わる寺院日記『鵤庄引付(いかるがしょうひきつけ)』には、1418年(応永25年)9月15日の記録として「サウメン」の記述があり、これが播磨地方における素麺の最古の記録とされています。
江戸時代の組織化と近代化
江戸時代の宝暦・明和年間(1751年〜1772年)には、揖保郡での素麺作りの組織化が進み、1865年(慶応元年)には、当時の龍野藩・林田藩・新宮藩の素麺屋仲間が「素麺屋仲間取締方申合文書」を交わし、品質管理を行う体制が整えられました。
近代の発展とブランドの確立
明治時代には、素麺業者の協力体制がさらに強化され、1887年(明治20年)には「播磨国揖東西両郡素麺営業組合」が設立されました。その後、北海道や朝鮮半島など遠隔地へ販路を拡大し、1906年(明治39年)には「揖保乃糸」という商標登録が行われました。
昭和時代に入ると、機械素麺と手延素麺の区別を明確にするため、1935年(昭和10年)に「播州手延素麺工業組合」が発足。第二次世界大戦による影響を受けながらも、戦後は需要が伸び、1976年(昭和51年)には「揖保乃糸」のブランドが一本化されました。
揖保乃糸の特徴
厳選された原材料
揖保乃糸は、品質の高い小麦粉を使用し、播磨地方の清らかな水と赤穂の塩を用いて作られます。組合が一括で材料を仕入れ、品質のばらつきを防ぐために厳格な検品が行われています。
細やかな製麺工程
揖保乃糸の製麺工程は、以下のように細かく分けられています。
- 捏ね(こね)
- 圧延(あつえん)
- 板切(いたぎり)
- 小より(こより)
- 掛巻(かけまき)
- 小引き(こびき)
- 小分け(こわけ)
- 門干し(かどぼし)
- 切断(せつだん)
- 計量・結束・箱詰め
特に「門干し」工程では、「はた」と呼ばれる道具を使って麺を2メートルまで伸ばしながら乾燥させます。この伝統的な製法によって、揖保乃糸ならではの食感が生まれます。
厳格な品質管理と等級制度
揖保乃糸は、製造後に検査指導員による検品と格付けが行われます。品質の基準として、以下の5項目が厳しくチェックされます。
- 麺水分:適切な水分量が保持されているか
- 麺線:均一な太さであるか
- 麺質:コシがあり、なめらかか
- 色択(白度):美しい白さを保っているか
- 香気:小麦本来の香りが活かされているか
等級には以下のような種類があります。
- 上級(赤帯):全体の約8割を占める標準的な等級
- 特級(黒帯):12月〜翌2月までの期間限定生産
- 三神:極めて希少な最上級品で、市場にはほとんど出回らない
- 縒つむぎ・播州小麦:北海道産・兵庫県産小麦を使用した特別商品
まとめ
揖保乃糸は、600年以上の歴史を持つ日本を代表する手延素麺ブランドです。職人の技と厳選された素材によって作られるこの素麺は、コシのある食感と上品な舌触りが特徴で、伝統的な冷やしそうめんから、パスタ風アレンジまで幅広い料理に活用できます。今後も、その品質の高さと伝統の技術が受け継がれていくことでしょう。