本尊真言
本尊真言:おん あろりきゃ そわか
ご詠歌
ご詠歌:春は花夏は橘秋は菊 いつも妙(たえ)なる法(のり)の華山(はなやま)
一乗寺の歴史
開山の伝説
一乗寺を開山したとされる法道仙人は、天竺(インド)から紫の雲に乗って飛来したとされる伝説的人物です。『元亨釈書』などの記述によると、法道はインドに住んでいましたが、紫の雲に乗って中国、百済を経て日本へ飛来し、播州賀茂郡(現在の兵庫県加西市)に八葉蓮華(8枚の花弁を持つハスの花)の形をした霊山を見つけ、そこに降り立ちました。そして法華経の霊山という意味で「法華山」と号したとされています。
法道は神通力で鉢を飛ばし、米などの供物を得ていたため、「空鉢仙人」と呼ばれていました。この評判は都にも広まり、白雉元年(650年)、時の帝であった孝徳天皇の勅命により法道に建てさせたのが一乗寺であると伝えられています。
寺院の発展と宗教活動
法道仙人が開基したとの伝承を持つ寺院は兵庫県東部地域に集中しており、紫雲に乗って飛来したという伝説の真偽は別としても、地域の信仰の中心となった実在の人物がいた可能性は否定できません。一乗寺には7世紀から8世紀にさかのぼる金銅仏が6躯存在し(うち3躯は重要文化財)、付近には奈良時代にさかのぼる廃寺跡や石仏などが存在することからも、この地域一帯が早くから仏教文化が栄えた地であることが確かです。
寺の移転と中世の繁栄
創建当時の一乗寺は、現在地のやや北に位置する笠松山にあったと推定されています。笠松山の山麓には奈良時代の三尊石仏(重要文化財)があり、「古法華」とは「法華山一乗寺の旧地」を意味すると思われます。現存する一乗寺三重塔は平安時代末期の承安元年(1171年)の建立であることから、その時までには現在地に伽藍が整備されていたと考えられますが、正確な移転時期は不明です。
真言律宗との関わり
中世においては、一乗寺の山内に真言律宗の律院も併設されていました。真言律宗の宗祖である興正菩薩叡尊の自伝『感身学正記』によれば、弘安6年(1283年)頃から、法華山は「殺生禁断」の起請文を掲げて叡尊の訪問を要望していました。そして弘安8年(1285年)には、叡尊がこの寺を訪れ、様々な仏教活動を行いました。
また、正応3年(1290年)には後醍醐天皇の護持僧となる文観房弘真が真言律宗に入信し、当寺境内にある「一乗寺石造笠塔婆」は彼の監修によって作られたものとされています。
近世の再建と現存建築
一乗寺は中世から近世にかけて何度かの火災に遭いましたが、平安時代に建築された三重塔などの古建築がよく保存されています。本堂は姫路藩主本多忠政の寄進により、寛永5年(1628年)に再建されました。
一乗寺の境内
一乗寺は兵庫県加西市の山間に位置し、豊かな自然に囲まれた静寂な環境の中にあります。境内は広大で、長い石段が続き、いくつかの段に分かれて整地されています。寺の入り口はバス通りに面しており、そこから参道を進むと、さまざまな歴史的建造物や文化財が配置されています。
石段と境内の入口
境内の入口には山門はありませんが、代わりに石造笠塔婆(兵庫県指定文化財)が参拝者を迎えます。この石造笠塔婆は鎌倉時代末期に建立されたもので、境内の入口に佇むことで訪れる人々に歴史的な雰囲気を感じさせます。
主要な建造物
本堂(重要文化財)
大悲閣または金堂とも呼ばれるこの本堂は、境内の中心に位置し、一乗寺の宗教的中心地です。入母屋造り、本瓦葺きで、正面に9間、側面に8間の大規模な建物です。この本堂は寛永5年(1628年)に姫路藩主本多忠政の寄進により再建されました。
本堂の設計は密教仏堂の典型的な平面を持ち、広い外陣と閉鎖的な内陣、脇陣、後陣から構成されています。参拝者のために外陣を広く取り、その天井には巡礼者が打ちつけた木札が大量に残されています。内陣には三間の大厨子が置かれ、中央に本尊である聖観音立像(重要文化財)が安置され、左右の間には不動明王と毘沙門天像が配置されていますが、いずれも秘仏とされています。
三重塔(国宝)
一乗寺の三重塔は、承安元年(1171年)に建立された国宝で、平安時代後期を代表する和様建築の傑作です。この三重塔は、日本でも数少ない建立年代が明確な塔であり、その優美なデザインと精緻な建築技術は日本建築史においても非常に貴重な存在です。
特に、塔身部の逓減率(初重から三重に向かって塔が小さくなる割合)が大きく、塔全体にバランスの取れた優雅な印象を与えています。三重塔の屋根上にある伏鉢(相輪の下部にある半球状の部材)には、承安元年の銘があり、塔の建立がこの時期であることを裏付けています。
鐘楼(兵庫県指定有形文化財):鐘楼は一乗寺の境内にあり、江戸時代初期に再建されたものです。この鐘楼は、寺院の儀式や法要の際に鐘を鳴らすための建物であり、寺の歴史と伝統を象徴する存在です。
常行堂:常行堂は、元来、聖武天皇の勅願によって建立されたと伝えられています。嘉吉の乱で一度焼失し、その後天文2年(1533年)に再建されましたが、再び焼失し、最終的には1868年(明治元年)に再建されました。
法輪堂:法輪堂は経蔵とも呼ばれ、仏教経典を納めるための建物です。寺の宗教的な活動や教育において重要な役割を果たしてきました。
護法堂(重要文化財):本堂の裏手、石段の上に建つ護法堂は、一間社春日造の社殿で、鎌倉時代に建立されました。この堂は、仏教を守護する神々を祀るためのもので、寺の守護神を祀る重要な場所です。
妙見堂(重要文化財):妙見堂は本堂の裏手にあり、三間社流造の社殿で室町時代に建立されました。この堂は、妙見菩薩を祀っており、寺の宗教的中心の一つとなっています。
弁天堂(重要文化財):弁天堂は妙見堂の左に並んで建つ一間社春日造の社殿で、室町時代に建立されました。弁財天を祀る堂で、寺の守護と繁栄を祈る場所です。
行者堂:行者堂は、仏教修行者である行者を祀る堂です。寺の宗教活動や修行の場として重要な役割を果たしています。
奥の院とその周辺
境内のさらに奥には、奥の院があり、ここには法道仙人を祀る開山堂(兵庫県登録有形文化財)が建っています。この場所は一乗寺の開山を記念する重要な場所であり、参拝者にとっても特別な意味を持つ場所です。また、奥の院の参道には、石造宝塔2基(兵庫県指定有形文化財)や賽の河原があり、石造九重塔(加西市指定有形文化財)も立っています。
石造五輪塔(重要文化財):境内の入口付近に位置するこの五輪塔は、元亨元年(1321年)の銘があり、一乗寺の歴史を象徴する重要な文化財です。
宝物館
境内入口の左手に位置する宝物館には、一乗寺に伝わる数々の貴重な仏教美術品や歴史的な資料が収蔵されています。普段は非公開で、年に2回、4月4日と11月5日のみ公開されますが、それ以外の時期に見学する場合は事前に許可が必要です。
本坊(地蔵院):本坊は僧侶たちの生活と修行の場であり、一乗寺の運営の中心でもあります。地蔵院としても知られ、境内の一部を構成しています。
塔頭(たっちゅう)
一乗寺にはいくつかの塔頭があります。これらは寺院の周辺にある小さな寺院や堂宇で、僧侶の住まいや修行の場として機能しています。
- 隣聖院:一乗寺の塔頭の一つで、境内の重要な構成要素となっています。
- 歓喜院:塔頭の一つであり、歴史的にも宗教的にも重要な役割を果たしています。
山門:一乗寺の境内の東に離れて建っている山門は、寺院への入口を象徴する建物です。この門をくぐることで、参拝者は寺院の神聖な空間に足を踏み入れることになります。
一乗寺の文化財
国宝
三重塔
一乗寺の三重塔は平安時代後期に建てられた和様建築の傑作です。承安元年(1171年)の建立とされ、日本に現存する塔の中でも非常に貴重なものです。その優雅で調和のとれた設計は、日本建築史において高く評価されています。
絹本著色聖徳太子及び天台高僧像 10幅
平安時代の11世紀後半頃に制作されたこの絵画は、聖徳太子を中心に天台宗の高僧たちを描いたもので、それぞれ縦約125.6〜131.6 cm、横約74.7〜75.8 cmの大きさがあります。各人物像は、立像・坐像、正面向き・斜め向き、横向きなどの多様な構図で描かれ、暖色系を中心とした鮮やかな彩色が特徴です。この絵画は、当初から法華寺(現在の一乗寺)に伝来していた可能性が高く、部分的な補修があるものの、当時の状態を良好に保っています。
重要文化財
金堂(大悲閣、本堂):前述の通り、一乗寺の本堂は密教仏堂の典型的な建物であり、その広大な外陣と閉鎖的な内陣は、参拝者の信仰心を深める空間として設計されています。寛永5年(1628年)に再建され、重要文化財に指定されています。
護法堂(重要文化財):鎌倉時代に建立されたこの社殿は、一間社春日造で仏教を守護する神々を祀るための建物です。本堂の裏手に位置し、石段を上ったところに建っています。
妙見堂(重要文化財):室町時代に建立された三間社流造の社殿で、妙見菩薩を祀っています。本堂の裏手に位置し、重要な宗教的建物として機能しています。
弁天堂(重要文化財):弁天堂は、妙見堂の左に並んで建つ一間社春日造の社殿で、室町時代に建立されました。弁財天を祀る堂であり、寺の繁栄と守護を祈るための場所です。
石造五輪塔(重要文化財):元亨元年(1321年)の銘があるこの五輪塔は、境内入口付近に位置し、一乗寺の歴史を物語る重要な文化財です。
絹本著色阿弥陀如来像(重要文化財):阿弥陀如来を描いた絹本著色の絵画で、繊細で美しい表現が特徴です。この絵画は、一乗寺の仏教美術の中でも特に重要な作品とされています。
絹本著色五明王像(重要文化財):五大明王を描いた絹本著色の絵画で、力強い筆致と色彩が印象的です。この作品もまた、一乗寺に伝わる貴重な仏教美術の一つです。
銅造観音菩薩立像 2躯(重要文化財):秘仏本尊像とその前立ち像で、飛鳥時代末から奈良時代初期にかけての作品です。高さはそれぞれ72.7 cmと80.3 cmで、直立した姿勢や素朴な顔貌表現、装身具の緻密さが特徴です。
木造法道仙人立像(重要文化財):法道仙人をかたどった木造の立像で、寺の開山伝説に深く関わる重要な文化財です。
木造僧形坐像(重要文化財):僧侶の姿をかたどった木造の坐像で、宗教的な価値が高く、一乗寺の歴史を象徴する彫刻作品です。
兵庫県指定有形文化財
鐘楼(兵庫県指定有形文化財):江戸時代初期に再建されたこの鐘楼は、一乗寺の儀式や法要において重要な役割を果たしてきました。
石造宝塔2基(兵庫県指定有形文化財):奥の院への参道に立つこれらの宝塔は、鎌倉時代末期に造られたもので、一乗寺の歴史と信仰を象徴しています。
石造笠塔婆(兵庫県指定有形文化財):鎌倉時代末期、正和5年(1316年)に造られたこの石造笠塔婆は、文観房弘真の監修によって作られたもので、当時の天皇や皇族に奉献されたものと考えられています。
三重塔古瓦(兵庫県指定有形文化財):三重塔の古瓦で、塔の建立当初の状態を伝える貴重な遺物です。
兵庫県登録有形文化財
開山堂(兵庫県登録有形文化財):法道仙人を祀るこの堂は、一乗寺の開山を記念する重要な建物で、兵庫県登録有形文化財に指定されています。
加西市指定有形文化財
石造九重塔(加西市指定有形文化財):奥の院の賽の河原に立つこの九重塔は、加西市指定有形文化財に指定されており、一乗寺の歴史と信仰を物語る重要な遺産です。
結び
一乗寺は、その歴史的背景や建築の素晴らしさから、訪れる人々に深い感銘を与える場所です。春には桜、秋には紅葉が美しいこの寺院は、自然と歴史が融合した素晴らしい景観を楽しむことができます。訪れる際には、ぜひ境内の各所をじっくりと巡り、一乗寺の持つ魅力を堪能してください。