設計者と建築の背景
旧山邑家住宅は、1918年にフランク・ロイド・ライトによって設計されました。ライトは1922年にアメリカ合衆国に帰国してしまったため、実際の建築は彼の弟子である遠藤新と南信が行いました。山邑太左衛門の娘婿であった政治家・星島二郎が、遠藤新と大学時代からの親しい友人であったことが、ライトとの繋がりを築くきっかけとなりました。
竣工とその後の利用
1924年(大正13年)に竣工した旧山邑家住宅は、芦屋市街を一望できる高台に位置しています。1947年には淀川製鋼所(ヨドコウ)がこの住宅を購入し、社長邸や独身寮として利用されました。また、1971年にはマンションへの建て替えが検討されましたが、建築史研究者らの保存要望を受けて取りやめられ、「ヨドコウ迎賓館」として一般に公開されることとなりました。
文化財としての価値
旧山邑家住宅は、フランク・ロイド・ライトが日本で設計した住宅建築の中で、ほぼ完全な形で現存する唯一の作品です。その価値の高さから、1974年には大正時代以降の建造物として初めて、かつ鉄筋コンクリート建造物としても初めて国の重要文化財に指定されました。その後、1989年からは建設時の姿に戻すための修復と調査が行われ、一般公開が再開されました。なお、2016年11月から保存工事のため閉館していましたが、2019年2月16日より再び一般公開されています。
建築の特徴とデザイン
旧山邑家住宅の設計において、フランク・ロイド・ライトの特徴的な手法が随所に見られます。特に、敷地に対する建物配置の絶妙さが際立っています。この住宅は、芦屋川が海に向かってまっすぐに行く直前の急峻な丘に階段状に建てられており、現在でも芦屋川を通じて大阪湾を一望することができます。また、建物全体を眺めながらエントランスに導かれるアプローチや、迷路状の流れるようなプラン、室内外の空間の細かい出入りなど、ライトの建築手法が存分に反映されています。
素材と装飾
建材には、木材としてマホガニー、石材として栃木県産の大谷石が多用され、細かい装飾が至るところに施されています。これらの素材や装飾が、建物全体に温かみと高級感を与えています。しかし、日本の多雨多湿な気候への配慮が不足している点が指摘されることもあります。ライトの建築は、本国アメリカにおいても気象条件に対する対応が十分であるとは言えないという特徴があります。
建物の詳細情報
基本情報
原設計:フランク・ロイド・ライト
工事 設計・監理:遠藤新建築創作所
工事 施工:女良工務店
竣工年:1924年
構造:RC造
建築面積:359.1平方メートル
延床面積:542.4平方メートル
所在地と交通アクセス
〒659-0096 兵庫県芦屋市山手町3-10
交通アクセス
- 阪急電鉄「芦屋川駅」から徒歩10分
- JR西日本「芦屋駅」から徒歩15分
- 阪神電鉄「芦屋駅」から徒歩20分
- JR西日本「芦屋駅」、阪神電鉄「芦屋駅」より阪急バス「開森橋」バス停下車、徒歩5分
関連施設と周辺情報
旧山邑家住宅の周辺には、芦屋市立美術博物館や虚子記念文学館、芦屋市谷崎潤一郎記念館など、さまざまな文化施設が点在しています。これらの施設も合わせて訪れることで、芦屋の豊かな文化と歴史をより深く感じることができるでしょう。
旧山邑家住宅は、日本の建築史においても非常に重要な位置を占める建造物です。芦屋を訪れる際には、ぜひこの歴史的な住宅を見学し、その建築美を堪能してください。