概要
兵庫陶芸美術館は、日本六古窯の一つに数えられる「丹波焼」の最大の窯業地である「丹波立杭」エリアに位置しています。ここでは、丹波焼をはじめとして、淡路の「みん平焼」、姫路の「東山焼」、豊岡の「出石焼」、三田の「三田焼」、篠山の「王地山焼」など、兵庫県産の陶磁器を中心に展示されています。また、古陶磁から現代陶磁に至るまで、幅広い展示が行われています。
所蔵・展示品の多くは、兵庫県陶芸館から購入・寄贈された陶磁器を核としており、これらは陶芸館の創設者である田中寛氏(全但バス社長、1904~81)の個人コレクションが中心となっています。
さらに、2008年に発足した日本の陶磁専門公立博物館で構成される「陶磁ネットワーク会議」の創立メンバーでもあり、国内外の陶芸に関する研究や展示活動を積極的に行っています。
施設の紹介
兵庫陶芸美術館には以下のような施設が設けられています。
展示棟
展示室は合計5室あり、1階に2室、2階に2室、地下1階に1室が配置されています。多様な陶磁器作品を常設展示や企画展示で紹介しています。
エントランス棟
1階にはインフォメーションコーナーや陶芸の工房があり、工房には土練機や電動ロクロ、電気窯、ガス窯などの設備が整っています。2階には展望デッキやダイニングカフェ「虚空蔵」があり、来館者が自然を眺めながらくつろげるスペースとなっています。
研修棟
研修棟には、120席のセミナー室や26名が収容できる談話室があり、陶芸に関する講習会やセミナーが開催されています。
その他の施設
その他にも、以下の施設が併設されています:
- 管理棟:レファレンスルーム(美術館図書室)、コミュニティギャラリー、館長室、副館長室、学芸員室、事務室、守衛室など。
- 茶室「玄庵」:8畳の茶室と18席の立礼席があり、呈茶サービスを提供しています。各棟は回廊で結ばれており、落ち着いた雰囲気の中で陶芸を楽しむことができます。
主な所蔵品
兵庫陶芸美術館には、多くの重要な陶磁器作品が所蔵されています。以下はその一部です:
- 丹波焼 壺 銘「猩々」(鎌倉時代前期)
- 丹波焼 赤土部灰釉三耳壺(江戸時代前期)
- 丹波焼 色絵桜川文徳利(江戸時代後期)
- みん平焼 色絵秋草文茶碗(江戸時代後期)
- 出石焼 白磁籠形貼花菊文壺(明治時代)
- 富本憲吉 鉄描銅彩「白雲悠々」字大皿(1953年)
- 富本憲吉 色絵金銀彩四弁花模様蓋付飾壺(1956年)
- ルーシー・リー 花生(1978年)
- 松井康成、清水卯一、柳原睦夫、中村錦平らの近現代陶芸作品
- 清水九兵衛 モニュメント「共存」(2005年)
建築概要
兵庫陶芸美術館の建築についても触れておきます。
- 設計:兵庫県、株式会社黒田建築設計事務所
- 施行:株式会社住吉工務店
- 竣工:2005年
- 施設:展示棟(鉄筋コンクリート造、地上2階、地下1階)、研修棟(鉄骨造)
- 敷地面積:49,000m²
- 延床面積:6,542m²
- 所在地:〒669-2135 兵庫県丹波篠山市今田町上立杭4
利用情報
兵庫陶芸美術館を訪れる際の利用情報です:
- 開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)、7月~8月の土・日曜日は9:30~18:00
- 休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は翌平日)、年末年始(12月31日・1月1日)
- 対象施設:ひょうごっ子ココロンカード
交通アクセス
兵庫陶芸美術館へのアクセスは以下の通りです:
- JR福知山線 相野駅から神姫バス「兵庫陶芸美術館」または「清水」行きで15分、「兵庫陶芸美術館」下車すぐ。
周辺情報
美術館周辺には、以下の観光スポットがあります:
- 立杭陶の郷
- 日本六古窯現代名陶館
- こんだ薬師温泉 ぬくもりの郷
- 播州清水寺
- 和田寺山
丹波焼の歴史と特徴
日本六古窯のひとつ「丹波焼」
丹波焼は、瀬戸焼、常滑焼、信楽焼、備前焼、越前焼とともに「日本六古窯」のひとつに数えられています。その歴史は古く、発祥は平安時代末期から鎌倉時代のはじめとされています。
当初は「穴窯」が使用されていましたが、1611年(慶長16年)頃には朝鮮式半地上の「登り窯」が導入されました。さらに、立杭独特の左回転の「蹴りロクロ」(足で回転させるロクロ)も受け継がれ、現在でも伝統技術として守られています。
丹波焼の特徴
丹波焼の最大の特徴は、素朴ながらも味わい深い焼き物である点です。中世の丹波焼には、赤みを帯びた土肌に自然釉(焼き締めによる釉薬の発生)が見られ、独特の「灰被り」と呼ばれる模様が表れます。
現代の丹波焼では、江戸時代以降に確立された釉薬の技術も活かされ、民芸調の作品が多く作られています。自然な風合いと落ち着いた色合いが魅力で、日常使いの器として人気を集めています。
丹波立杭焼の魅力
伝統技術の継承
丹波焼の伝統技術は、現代においても大切に守られています。立杭陶の郷では、陶芸教室が開催されており、訪れる人々が丹波焼の技法を実際に体験できます。
また、登り窯を使った焼成方法など、丹波焼独特の製法を間近で見ることができるため、陶芸に興味のある方にとって貴重な学びの場となっています。
生活雑器としての役割
丹波焼は、古くから壺、甕(かめ)、すり鉢など、実用的な生活雑器として焼かれてきました。江戸時代には、耐久性に優れた丹波焼のすり鉢が関東以北で広く普及し、そのシェアは瀬戸焼と並ぶほどでした。
また、江戸時代中期には茶道の流行とともに、茶碗、茶入れ、水指といった茶器の製作も盛んになり、小堀遠州の影響を受けた優美な作品も生み出されました。
丹波立杭焼の現代的な展開
伝統と革新の融合
現代の丹波焼は、伝統的な技法を守りながらも、新しいデザインや用途を取り入れた作品が次々と生まれています。白化粧土を使った「白丹波」など、京焼や美濃焼の影響を受けた技法も発展し、多彩な表現が可能になっています。
日本遺産としての認定
2017年4月29日、丹波立杭焼は「日本六古窯」の一つとして、日本遺産に認定されました。これは、長い歴史を持つ六つの窯元が日本の陶芸文化において重要な役割を果たしてきたことを証明するものです。